しつけの基本は「親に従わせる」こと
7か月と、4歳になる男の子2人の母親が子育てについて尋ねました。上の子は、のびのびと育てるように心がけて子供の意思を尊重して育てました。しかし、1歳のころから親のいうことを聞かないようになり、今は毎日のように怒ってしまい、自分でもいやになることがあるというのです。さらに、7か月になる子も、上の子のようになってしまうかと思うと子育てに自信が持てなくなってしまったのです。
この母親の子育ての方針は、「子供中心に考えて、子供がやりたいことや好きなことをやらせるようにする」ことでした。そこで「たとえば、子供があなたの頭をたたいたとします。もちろん、痛くはないでしょうが、そのようなときはどうしますか」と質問すると「3歳まではなにもわからないと思いましたので、しかることはしませんでした」と答えました。
子供に善悪を教えるのは親の役目:ほとんどの親は、乳児期にどのようなしつけをすればいいかわからず、D子さんのようにある程度大きくなってからしつけを始めようと考えています。しかし、気づいたときには思うようにはいかなくなっていることが多いのです。
子供のしつけは早く始めるほど容易で、子供にとっても小さいときのほうが学習しやすいのです。なにかを身につけたあとでそれを変えるのは困難ですし、正しい基本が身についていたら、その上に成熟できるからです。
そこで「7か月のお子さんにもしつけは必要です」と話し、「この時期重要なしつけはか親に従うようにさせることです」と強調しました。
しかし、多くの親は、しつけをいつ始めればいいのかわからないようです。そしてどうしてこのしつけが重要なのか、その理由や意味はわかっていません。
近年、援助交際や青少年の家庭内暴力などが深刻な問題となっていますが、そういった善悪の基本を教えるのはこの時期なのです。たとえば魚は水の中では自由に動きまわることはできますが、水の外では動きまわれません。つまり、自由には“水の中にいる”という基本的ルールを守ることが前提にあるのです。子供にとって親は、なにが安全でなにが悪なのかを教えてくれる唯一の保護者です。そういったことはこの時期に子供が親に従うようにしつけられることによって学ぶことができるのです。
ところが、子供が4、5歳になっていうことを聞かなくなると、たいていの親はどなったりおどしたりして従わせようとします。こういう場合、親の前では従っても表面だけであって、実際には身についていないので同じことをくり返すのです。大きくなってからも友逢などの対人閑係を築くことが困難となり、自分の好き勝手に行動してしまいます。
愛情を与えながらしっけをしましょう:それでは、どのようにしたらいいのでしょうか。先ほどの例で説明します。
子供からたたかれたとします。このときがまさにしつけをするタイミングになります。子供がたたこうとしたら子供の目をしっかり見て「だめよ」と、怒るようにではなく確信を持っていうことです。子供は親を見て戸惑うようなしぐさをするかもしれませんが、このときも首を横にゆっくり振って低い声で「だめよ」とくり返してください。それでも子供がたたこうとしたら子供の手をつかんでさらに「だめ!」と強くいうことです。
また、気づかないうちに子供にたたかれてしまったら、同じように子供の目をしっかり見て「だめ!」と少し強い調子でいってください。再びしようとしたら、首を横にゆっくり振って低い声で「だめよ」とくり返してください。子供が泣いても涙に惑わされては正しいしつけはできません。しかし、最後には子供を抱いて愛情をしっかり示すことを忘れないことです。
このようなやり方で、食事や寝る時間、または友達や兄弟などの人間関係のしつけに応用してみてください。
思春期のしつけの中心は自由と責任
現代のような社会では、特に、中学生や高校生を持つ親の悩みは尋常ではないかもしれません。しかし、一つのポイントをしっかり覚えてしつけるなら苦悩の中でも一筋の光を見ながら育てられるかもしれません。
高校1年生の娘を持つ主婦が来談しました。娘は週末になると友達と遊びに出かけますが、家に帰ると「疲れた」といって勉強をするエネルギーはほとんど残っていません。
試験があるときには勉強をするようにいうのですが「帰ってきたらかならずやる」と返事はするものの、結局、帰ってきても疲れた様子で勉強はしません。今はどうすることもできず、お手上げ状態なのです。
この主婦は、万策尽きたという状態でカウンセリングにこられました。娘さんは、中学時代までは勉強と部活に専念し、友達と今のように出かけることはほとんどなかったそうです。
しかし、高校に入ってからは、クラスメイトと外出するようになったそうです。そこで「クラスメイトがどんな子か知っていますか」と聞くと「家に来たこともありますし、その親たちも知っています。問題はないと思うのでその点は心配していません」と答えました。
親が子供の友達やその親たちのことを把握しているのはとても重要なことです。彼女はその点では抜かりがないようなので、娘さんへの対応について聞いたところ、「娘が『勉強はあとでやるから』と強くいうとなにもいえなくなるのです」と答えました。強くいうと娘さんは「自分のことを信じられないのか」とけんか腰で、彼女も感情的になってしまうのだそうです。
結末を体験させる:そこで、「この時期の子供のしつけの基本は、『自分のやったことの結果を体験させるようにする』ことです」といいました。
小さいときは、親が強くいえば黙って従うことが多いのですが思春期の子供たちには、それでは効果的なしつけはできません。自分の世界が広くなって知恵や情報量が格段に増えますので親に素直に従わなくなります。
「結果を体験させるとはどんなことですか」と聞いてきたので、次のような対応法を教えました。
「まず、娘さんが試験の準備は帰ったあとでやるといったら、それはむずかしいのではないか、と不安を表明します。それでも娘さんが『だいじょうぶ』といったら、娘さんに『あなたがだいじょうぶというのなら、今度の試験で充分な点がとれないようであれば、次の週末の外出は禁止です』といいます。それでも行きたいというのであれば明確に約束させ、外出させます。
おそらく、母親の予測どおり、娘さんの試験の結果はよくないでしょう。そのとき、娘さんに『ほら見なさい! お母さんのいったとおりでしょう!』とはいってはなりません。『残念だったね。じゃあ、お母さんと約束したように次の週末は家で過ごすのよ』と、優しくかつ確固とした態度でいうことです」
こう答えると間髪入れずに「それでもきっということを聞かないと思います。
もし、娘が約束を破ったらどうしたらいいのですか」といいました。このような不安は、多くの親たちが持つ共通の感情です。
しかし、このように対応していくことは効果があるのです。このように対応すると「自由には責任が伴うのだ」ということが少しずつ体得されていくのです。ここで大事なのは継続して同じ原則を適用することです。そして娘さんが約束を守らなかったら、外出できない週末が倍になるでしょうし、おこづかいに響くようにしてもいいのです。
大人としての責任を自覚させる:このように、しつけは年齢に合ったものでなければなりません。特に、思春期にある子供たちは、子供でも大人でもない、という不安定な時期ですので、対応には最も知恵が必要とされます。ですからこの時期の子供には、表面的には大人として接することがポイントです。そのように接すると子供は大人のような責任を自覚できるのです。自分がとった行動の結果を体験させて、その結果に責任を持つように対応するのがこの時期に重要なしつけだといえましょう。