子離れ/親離れ(その二)

五ヶ月から十ヶ月:親からの自立の芽生え
この時期の成長の特徴は、這い這いをすることです。寝てばかりで移動できないでいた赤ちゃんが、這い這いが出来るようになると、その世界は広がります。
そして、手当たり次第手にとって触ったり、舐めたりします。このようなことをし始めると、しばしば親は、危ないとか危険だとかで、赤ちゃんがするのを引き止めようとします。そうであれば、触られたり、舐められたりしては良くない物は、片付けておくことです。
親が引き止めるもう一つの理由は、親自身の自立の問題です。親が自立をしていないと、無意識のうちに親の下から離れて何かをするのが不安になるのです。表面上は、危ないからという名目ですが、実際は親の不安からの場合があります。
こうなると、自立の芽を摘み取ってしまうのです。親はますます子どもにべったりになり、自立どころではなくなります。
三十歳代の主婦であり、又、パートでピアノを教えているクライアントがいました。彼女には、三歳年上の姉がいましたが、祖母が殆ど完全にその姉の育児の実権を握っていました。母親は、クライアントである妹を初めての我が子という思いで育てたというのです。
この母親は、小さい時に母親を亡くし、継母に育てられ甘えたという経験はなく、いつもいい子でいたようです。従って、表面的は自立しているようですが、内面的には不安定で、周りをコントロールしていないと強迫観念さえ生じるようでした。
長女を取られたという悲しさと寂しさも手伝って、次女が生まれた時の喜びは大変なものだったそうです。しかし、この母親は、次女との密着は異常なほどで、自分からちょっとでも離れたら、危険ではという思いに駆られることが多かったと記憶していました。
十ヶ月から十八ヶ月:社会には制限がある
この時期になると、子供は歩き始めます。歩けるようになると這い這いしていた時期に比べて、子供にとってはその世界は何倍も広がります。
よく、三、四歳の子供たちをもつ母親たちから、子供が騒いでしまいコントロールが出来なくなるとか、あるいは、思春期にある中高生の親たちからは、親に対する暴力的な言葉を吐くとかの相談を受けることがありますが、このような問題の根っこは、この時期にさかのぼることが出来ます。
さらには、援助交際をしている女子生徒たちが、性は自分のものだからどうしようが自分の勝手だ、などとという場合も同じような原因を考えることが出来ます。
この時期は、子供の世界が広がりますが、そのプロセスで学習しなければならないのは、現実の社会には制限があるということです。この学習を出来なかった子供は成人してからが不幸です。
結婚して五年になるが子供が出来ずに悩み、落ち込んでいる三十代の専業主婦が来られました。お話を聞いていて分かったことは、高校のころから大学に在学中に、数え切れないほどの男性と性交渉を持ったというのです。援助交際に近い関係もあったというのです。
しかし、現在の夫と知り合ってからは、そういった関係はまったくなく、結婚してからは家庭を大切にし、子供の出来るのを待っていました。しかし、に、三年経っても子供が出来ないので、産婦人科に行って診てもらったところ、性病にかかっていて子供は難しいと言われたというのです。
彼女は、性病にかかっていたのも分からなかったようで、夫にも申し訳なく思い何度か死にたいと思ったこともあったというのです。しかし、夫の「子どもがいなくともいいではないか」という慰めの言葉に甘えてきたというのです。
彼女は、小さいころ親が年をとってからの子供であったせいか、好きなものは何でも買ってもらい、甘やかされて育ったということでした。
社会には制限があることを学習するには、この時期がベストなのです。三、四歳になれば、何倍もの努力と期間が必要になり、親は試みても諦めてしまうのです。
教育の現場で問題となっている学級崩壊も、子供たちがこの時期に制限についての十分な学習をしていなかったことと関係がないとはいえません。
しかし、制限について学習していないで成人すると、その制限に直面させられます。先ほどの主婦は、不妊という制限に直面しました。ある四十代の主婦は、遊びのつもりで不倫して、夫の知るところとなり、離婚され、その後の人生が余りにも惨めで、自分のしたことの結末の大きさに、悔やんでも悔やみきれないと告白しました。
制限を学習しないで親の下から離れるなら危険でいっぱいです。社会は無数の制限があるのです。法律をはじめとして会社や学校の規則、社会の常識まで、これらの制限のなかで働き、且つ生活しなければ、何らかの制限に引っかかるのです。その時は、その人の自由が制限され、自分がしたいと願っていることが出来なくなります。反社会的な行動等もこの時期の学習に問題があるのです。
従って、自立して生活するためには、どうしても社会には制限があることを学ぶ必要があります。